MEIDEN Engineer’s Note(明電 エンジニアズノート):No.2 風力用発電システム 風車じゃないよ

海岸沿いや小高い丘で気持ち良さそうにくるくる回っている風車たち。明電舎は、その風車の奥にある発電機PMG(Permanent Magnet Generator:永久磁石式同期発電機)とコンバータ(整流器)をつくっている。

明電舎の風力用発電システムの特徴はなんですか?

発電機の技術担当 山口
▲発電機の技術担当 山口
山口
明電舎の風力用発電システムの特徴は、風車とダイレクトにつなぐことのできるPMGです。このPMGとコンバータを効率的に組み合わせて、セットで発電システムを提供できるところに、明電舎の強みがあると思っています。

ダイレクトに接続できるPMGってどういうものですか?

増子
明電舎のPMGは、低速回転でも大容量の電気をつくることができます。風車は設計上10~20回転/分と低速で回転しています。つまり、システム全体の発電効率を考えると、風車と直結しているPMGは低速回転でも大容量の電気を発電しなければなりません。そこで役立ったのが明電舎の低速ディーゼル発電機の技術。それは、ゆっくりと回転しながらでも約30MW~40MWの電気をつくり出す超大型発電機の技術でした。これを応用して、発電効率の高い風力発電用PMGを開発することができました。PMGの発電量は2MW。これがどのくらいの容量かというと、ドライヤー約2000台をまかなうことができるほど。中規模の工場施設などであれば、PMG1台で稼働させることもできてしまいます。
山口
低速回転で大容量の電気をつくろうとすると、発電機自体の大きさがどうしても大きくなってしまいます。風力発電用PMGの技術基礎となった30MW~40MW級の低速ディーゼルの発電機は、直径約10mを越えるものもあります。2MWのPMGでも直径は約4mと大型になる。PMGは、固定子(コイル)の中に回転子(磁石)が入っていて、回転子が風の力で回ることによって発電する構造です。固定子と回転子のすき間は、約5~6mm程度とPMG全体の大きさに比べるととても小さい。このすき間が小さければ小さいほど発電効率は良くなります。ただ、回転子の磁気吸引力は15t/mm。固定子と回転子の間のすきまが1mmずれると、そこに15tの力が加わります。構造的に強度が弱いと回転子と固定子がくっついてしまう恐れがあります。一回でもくっつくと、回転できなくなる。だからといって、強度を高くすると、今度は重量が重くなり部品を運ぶだけでもひと苦労。固定子の中に回転子を入れる作業も、その大きさの割にmm単位の繊細な技術が求められるんです。
直径4mある大型のPMG
▲直径4mある大型のPMG
PMGの回転子は風車に直結している
▲PMGの回転子は風車に直結している

じゃあ、コンバータは何をしているの?

風任せでは発電された電気は不均一 → コンバータで整えると均一になる
増子
風って弱く吹いたり、強く吹いたり。日によっても時間によっても不安定なものですよね。でも、それでは発生する電気の電圧(周波数)が一定でなくなってしまう。つまり、風任せに発電した電気では、わたしたちの暮らしにそのまま使うことができないんです。そこでコンバータの出番。PMGで発電した電気の周波数をキレイに整えます。コンバータがあるからこそ、風車とダイレクトに接続できるPMGを最大限活かすことのできる風力用発電システムが実現可能となるのです。

じゃあ、コンバータは何をしているの?

翼のてっぺんまでの高さが100m以上にもなる
▲翼のてっぺんまでの高さが100m以上にもなる
山口
メリットは大きく4つあります。まずメンテナンスコストが低いこと。近年巨大化し、大きいものでは100mの高さを越える風車。その中心部まで、はしごで登っていかなくてはならないことを考えると、メンテナンスの回数はなるべくゼロに近い方がいい。風力用発電システムの中には、風車と発電機の間にギア(増速器)を使っているものもありますが、風車の回転エネルギーを直接受けるギアには、とっても大きな負荷がかかる。それならばいっそ無くしてしまった方がいい。明電舎の発電システムは、風車とPMGを直接つなぐことで、ギアをなくしました。それによって、部品点数は圧倒的に少なくなり、品質の向上、メンテナンスコストの削減に成功しました。

増子
2つめのメリットは、騒音の軽減です。風力発電が住宅地を避けて建設される理由の一つに、騒音が挙げられます。ギアがあると、その分だけ音が出る。そこで明電舎のシステムは、ギアレスにより騒音を軽減しました。3つめのメリットは、故障リスクの軽減。明電舎のコンバータは、約20年の長寿命。加えて、部品点数が少ないことは、壊れる部品の数がそもそも少ないということ。長年にわたって使い続けるインフラにとって、このポイントはとても重要だと思います。
山口
そして最後のメリットは、PMGとコンバータをオールインワンで提供できること。お客様の多様なニーズやその土地の風況に合わせて、発電システムを効率的に構成することができる。さらに、そのメンテナンスも明電舎1社に頼めるので、余計なコストはかからなくて済む。効率的に事業を進められれば、社会に還元できるメリットも大きくなると思います。

風力発電が、これからの電力供給の主流になる可能性はありますか?

日本における風力発電の可能性について語る増子
▲日本における風力発電の可能性について語る増子
増子
日本と海外では、だいぶ状況が違いますね。欧米や中国などは一定の風が一年中吹いているところが多く、風車には絶好の環境です。それに比べ日本は難しい環境です。台風が来る時もあれば、風が吹かない時期もある。でも、それがそのまま風力発電が日本の電力供給の主力になりえない理由にはならないと思っています。
山口
これまでだって日本はあまり資源の豊富な国ではなかった。むしろそれをヒトの知恵、技術力で乗り越えてきた部分が大きい。難しい環境だからこそ、技術が育つ。ぼくたちが前進すればするほど、日本の風力発電も前進する。世界に通用する強い風力用発電システムを、日本から発信していく。そこに、この仕事の醍醐味があるんです。

この仕事で一番大変なところはなんですか?

「この仕事の一番のやりがいは、未来を描くこと。」
▲「この仕事の一番のやりがいは、未来を描くこと。」
増子
ぼくたちの仕事は、お客様のニーズや希望を、製品開発に生かし、ものづくりの現場につなぐこと。単純に、「こんな発電機があります。買ってください。」というわけにはいかない。お客様にとって一番理想のシステムにしなければならないんです。一番難しいのは、お客様の言葉を絵にすることだと思います。でも、そこが一番のやりがいでもある。
山口
お客様の要求は、言ってみれば風力発電の未来、もっと言えばみんなの生活の未来なわけです。それを絵にするということは、未来を描いていくこと。「こういうことになったらいいな」「こんなことできたらすごいなあ」という漠然とした要求でも、ぼくらがそれをかみ砕いて、具体的な絵にすることができれば、実現可能な未来に変わるわけです。その提案がお客様に評価されたら、もう最高ですね。

エンジニアズノート プロフィール エネルギーシステム事業部 発電技術部 山口 克昌(左) 好きなフルーツ:マンゴー エネルギーシステム事業部 風力事業推進部 増子 利健(右) 好きなフルーツ:モモ

[2011年7月15日]

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