叶える人、叶える技術。明電舎

提供:明電舎

ここに掲載のコンテンツは、日本経済新聞 電子版で
2019年3月から掲載した広告特集「叶える人、叶える技術。明電舎」の転載です

叶える人、叶える技術。明電舎

提供:明電舎

Stage8  ゲリラ豪雨にIoTで挑む地域を守る浸水監視技術「水の国」熊本を舞台に下水道管内を「見える化」 Stage8 ゲリラ豪雨にIoTで挑む地域を守る浸水監視技術「水の国」熊本を舞台に下水道管内を「見える化」

全国各地でゲリラ豪雨が頻発し、市街地ではマンホールから突然水が吹き上がり、浸水する被害も相次いでいる。日本国内には総延長47万キロ、地球から月までの距離38万キロを優に超える下水道網が張り巡らされ、地域社会の生活環境を守ってきた。しかし、異常気象による想定外の大雨は短時間でその下水道網に大きな負荷をかける。今後、下水道の維持・更新にかかる推計額は年1兆円規模に上るといわれ、国や自治体は頭を抱える。重電メーカーとして上下水道のインフラを支えてきた明電舎。最先端のICT(情報通信技術)を使った新たな浸水対策ソリューションに挑んでいる。

「大雨で浸水しそうです。今すぐ土のうを持ってきてください」。熊本市の上下水道局維持管理部管路維持課の藤本仁課長は、豪雨のたびに市民からの悲痛な声に真摯に向き合ってきた。現場で、約300袋の土のうを積み上げ、撤去作業まで行った。

熊本は「火の国」と呼ばれるが、水資源の豊かな地域でもある。熊本市は水道水源のすべてを地下水でまかなっているが、これは50万人以上の都市としては全国唯一の存在だ。阿蘇西麓からの地下水の恵みを受け、「蛇口をひねれば、ミネラルウォーターが出る街」といわれ、渇水時でも断水の経験がない。市東部の健軍水源地では今も地下水が湧き上がり、水道水の4分の1を供給している。

藤本 仁
熊本市 上下水道局
維持管理部 管路維持課 課長
藤本 仁

その一方で、九州北部豪雨などゲリラ豪雨に見舞われる頻度が年々増えている。2001年6月には時間最大降雨65.5mm/時、03年7月には80.5mm/時、06年6月には86.5mm/時を記録。時間60mmを超えるゲリラ豪雨は幾度となくあり、困っていた。藤本課長は、浸水で河川のようになっている道路に何度も出向き、自ら現場を撮影。ビデオカメラ3台をつぶして撮影したその動画を使い、市長にプレゼンテーションして浸水対策の重要性を訴えた。その努力が実り、08年に熊本市下水道事業浸水対策計画の策定に至った。

2013年8月、豪雨で市中心部にあるマンションの地下1階が浸水被害に遭い、クルマが水没。新たな防災対策を迫られた藤本課長は、「雨水管や雨水貯留管の整備などのハード対策を検討していましたが、まず下水道管内の水位変化などの現状を把握し、『見える化』しないといけないと考えました。雨水は傾斜を利用して上から下に流れ、河川に流れ込みますが、市内にはりめぐらされた下水道管の総延長は2600キロを超え、熊本から北海道までの距離に匹敵します。下水道管内の情報を把握するのは従来の方法では困難でした」と振り返る。

浸水監視用の
マンホールアンテナを開発へ
1時間先の水位を予測

2014年6月、熊本市は、明電舎と共同でIoT(モノのインターネット)を活用した水位予測システムの実証実験に乗り出した。明電舎は下水道管内にセンサーを取り付け、マンホールに設置したアンテナからリアルタイムの下水道管内水位情報をクラウドに収集する下水道管きょ用IoTデバイス「マンホールアンテナ」の開発に取り組んでいた。下水道管内水位情報と降雨情報などを組み合わせ、AI(人工知能)で1時間先の水位を予測し、自治体などを通じて地域住民や地下街の店舗などに情報を届け、浸水対策に活用するのが狙いだ。

浸水監視対策のためのマンホールアンテナの仕組み

藤本課長は「インフラなどのハード整備ももちろん必要不可欠ですが、予算も時間もかかります。ICTなどを使ったソフト対策との両輪で実施しなくてはいけないのです」と語る。ゲリラ豪雨が多発する中、国交省がまとめた新下水道ビジョンでも、防災・減災対策としてICTの積極的な活用を盛り込んでいる。

2018年12月14日午前、JR熊本駅に近い地区で明電舎の技術者らはあるマンホールに向き合っていた。約50キロの重い蓋を開けると、その裏側にアンテナやバッテリーを組み込んだ通信機器が取り付けられている。明電舎の水インフラシステム事業部戦略企画部システム開発課の川口隆太郎は、実際のデータを見せながら、「下水道管の水位のデータはリアルタイムで分かります。現時点の水位は7~8センチですが、梅雨の時期だと、たちまち2メートルを超えたりします」といい、過去の水位データを画面に表示した。

この下水道管は雨水と汚水の合流管。管内は生暖かい空気が漂うが、臭気はほとんどない。上からのぞき込むと、すぐ下を水が流れているように感じるが、下水道の底から蓋まで約5メートルはあるという。浸水被害とは無縁の地域のように思える。だが、気象庁でも異常気象がもたらす局地的な大雨がいつどこで起きるのか正確に予測するのは非常に困難だ。しかも「下水道網は複雑ですし、地形状の問題もあり、大雨の降っていない箇所で浸水被害が起こることもあります。水位を予測するのはすごく難しいのです。しかし、地域にとって浸水監視は非常に重要だと思います」と川口は強調する。

川口 隆太郎
(株)明電舎
水インフラシステム事業部
戦略企画部 システム開発課
川口 隆太郎

リスクの多い
下水道管内で実証実験
堅牢なシステムづくりに
試行錯誤

九州出身の川口は浸水被害の凄惨な現場を目の当たりにしてきた。「2017年の九州北部豪雨では私の友人の自宅が流される被害に遭いました。流木や様々な漂流物が筑後川から有明海に流れ込み、悲惨な光景が広がっていました」と回顧する。学生時代は佐賀で過ごしたが、「クリーク」と呼ばれる水路の多い地域で度々浸水被害に悩まされていた。明電舎に入社後、くしくも13年から熊本で水位予測システムの実証実験に参画したが、苦難の連続だった。相次ぐ豪雨に加え16年には熊本地震が起こり、下水道の一部も被災した。

そもそも下水道管内は危険が多い。酸素欠乏症や有毒ガスによる硫化水素中毒に陥るリスクもあるため、有毒ガス検知器で必ず管内をチェック、管内作業するには特別な資格も必要だ。「管内は高温多湿で厳しい環境です。その中に何百回も入り、実験を繰り返しました。機器をダメにしたことも何度もあります」という。

下水道管内には様々なリスクがある

マンホールアンテナ開発を推進した専任部長の中島は、「マンホールの鉄の蓋にアンテナを備えなくてはいけませんが、鉄の蓋は電波との相性が悪いのです。公道のマンホールの蓋の表側にアンテナを置くわけですから、通過するクルマの重量にも耐えられなくてはいけません。水量を測るセンサーは下水道管内の底に置くのですが、大都市には50メートル以上の大深度地下に直径が6メートルを超える下水道管路もあります。もちろん大量の水が一気に流れ、激しい水圧がかかっても通信装置やバッテリー、センサーなど各種機器が持ちこたえるように工夫する必要があります」と話す。

明電舎は、様々な自治体と手を組み、堅牢(けんろう)で信頼性の高いマンホールアンテナのシステムを開発するため、試行錯誤した。13年に東京都の下水道管内に試作品を設置し、実証実験の開始を皮切りに、熊本市では延べ14カ所のマンホールで実証実験・共同研究に取り組んだ。

中島 満浩
(株)明電舎
水インフラシステム事業部
戦略企画部
中島 満浩

現場力を生かして水位予測システム開発
精度は80%超

ゲリラ豪雨が社会課題になるなか、他のITサービス企業も浸水監視のための同様のシステムを提供している。「クラウドなど通信システムの提供であれば、ITサービスの会社でも可能でしょう。しかし、明電舎は下水道処理場の電気設備を長年担うなど全国の上下水道のインフラを支えてきたので、現場を熟知しています。どのポイントを計測すれば、効果的なデータを得やすいのかを理解しています。我々の強みは現場力にあります」(中島)という。

明電舎は2016年にマンホールアンテナの販売を開始した。マンホールの蓋を取り替えるだけで使用でき、最新の通信技術の採用やバッテリーの有効利用でコストを抑えた。中島専任部長は、「1時間先の水位を正しく予測できる確率は80%超です。今後は(気象庁による)レーダーの気象予測のレベルが上がると見られているので、さらに精度が高まると考えています。高齢者の方などがスムーズに避難できるように1時間先といわず、2~3時間先の高精度な水位予測ができるようにしたいと考えています」という。

水位予測を迅速に把握できれば、地域社会の安全を確保できるだけではない。蓄積したデータを分析すれば、どの下水道の改修を優先するかが分かるようになる。また既存の設備の有効活用にもつながる。熊本市の藤本課長は、「水位予測と連動してポンプ場の運転管理を適正化すれば、下水道の維持管理の効率化、コスト削減に生かせるのではないかと考えています」と話す。

水インフラを支えてきた明電舎の強みは現場力だ

防災以外に観光、
医療にも応用可能
データの共有化を推進へ

「今まで見えなかった地下の情報を見える化したことは、大変意味あることだと思います」。明電舎の営業企画グループ インフラソリューションプロジェクトリーダーで、同事業部戦略企画部部長の平井和行はそう語る。下水道管内の情報は、防災のみならず様々な分野への応用も考えられるというのだ。「ある地域で局地的な大雨が降り、一部の道路が浸水しそうなときでも、近隣の別の地域は晴れていて、通行に支障がないというケースもあります。水位予測情報と交通情報をつなげることで、観光やロジスティクスにも役立つと思います」と語る。下水道内の微生物のモニタリングにより早期に感染症の流行を検知し、地域に情報を発信する医療支援システムの構築につながる可能性もあるという。

電気技術をベースに上下水道や鉄道などのインフラを支えてきた明電舎。平井は「私たちはインフラ上で蓄えたデータを独り占めにする気はありません。このデータを国や自治体、他の企業などと共有し、地域社会に役立ててもらいたいと考えています」と強調する。「例えば、サッカーなど何万人も集まる試合がある場合、ハーフタイムになると、一斉に観客はトイレを使ったり、スマホを見たりします。その時間帯は当該地域で下水道処理や電波に大きな負荷がかかる。試合が終われば、今度は道路や鉄道が大混雑になったりする。そのような各情報をあらかじめ予測し、各インフラが連携して備えておけば、トラブルを未然に防いだり、軽減できたりするのではないでしょうか」と説く。

平井 和行
(株)明電舎
水インフラシステム事業部
戦略企画部
平井 和行

熊本地震で被災した南阿蘇村を訪ねると、今も土砂崩れなどによる爪あとが残り、橋や道路、鉄道などインフラの復旧も道半ばだった。地震に豪雨、天災はいつ襲ってくるか分からない。ただ、インフラ用のIoTデバイスを活用して様々なデータを収集・共有化して有効活用すれば、地域社会の安全・安心のみならず、各種サービスの安定的で効率的な運用・管理につながるかもしれない。

まとめ

日本国内では1970年代から下水道整備が本格化し、普及率は78%。1億人の国民が公共下水道を利用している。下水道の耐用年数は通常40年、大半が設備の更新時期を迎えているが、財政難の自治体には荷が重い。下水道の電気設備における明電舎のシェアは約18%、実に1800万人が同社の設備で下水処理をしているわけだ。その長年の経験とノウハウ、そして最新のIoT技術を生かして開発した下水道の水位予測システムは、浸水被害の最小化やスマートな雨水管理につながると期待されている。

IoT防災監視サービス

用語解説

インフラ用のIoTデバイス
インターネットにつながるモノ、いわゆるIoTデバイスは爆発的な勢いで増えている。スマートフォンやパソコンなどの情報端末から自動車、家電製品に続いてオフィスや製造現場、そして上下水道や道路など社会インフラにも領域を広げている。インフラ用のIoTデバイスとしてはセンサーやアンテナなど通信機器が使われるが、実用化へのハードルは高い。厳しい通信環境下におかれ、長期間の耐用年数が求められるケースが多いからだ。このため「LPWA」と呼ばれる、低消費電力で長距離データ通信を可能にした最新の無線技術などが活用されている。
※敬称略