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環境に良い配電経路は、停電復旧もしやすい
停電復旧の「しやすさ」を評価するアルゴリズムを開発

2023年09月13日

【発表のポイント】

  • 配電系統における停電復旧の「しやすさ」を評価・分析するアルゴリズムを開発。
  • シミュレーション実験を通して、配電損失量が少なく環境に良い配電経路は、過酷な事故の発生時でも停電復旧しやすいことを分析。
  • 脱炭素化社会の推進が望まれる中、天災や故障への備えが、環境配慮と両立できることを示唆。今後、実際の配電運用への活用が期待される

【概要】
停電発生時、故障が生じていない停電区間は、隣接する配電エリアの供給余力を融通することで、早期に停電復旧できることがあります。停電の早期復旧の可否は、常時運用系統(事故発生前の配電経路)に依存するため、あらかじめ停電復旧しやすいように常時運用系統を設定しておきたいという要望があります。しかし、配電系統のいつどこで事故や故障が発生するかは予測できるものではなく、停電復旧の「しやすさ」を定量的に評価し、数理解析する方法は確立されていませんでした。

この課題を解決し、配電系統の事故耐性をより高めるため、本研究では、停電復旧のしやすさを評価する指標を提唱し、その数理解析アルゴリズムを開発しました。(特許共同出願中)。本研究の分析によって、配電損失量(注1)が小さい常時運用系統は、事故時の停電残量(注2)(早期に復旧できない停電量)も小さいという興味深い結果が得られました。これは、東北大学大学院情報科学研究科の伊藤健洋教授と鈴木顕准教授を中心とする研究グループと、株式会社明電舎が、2020年より取り組んだ産学共同研究による成果です。主にアルゴリズムの研究は東北大学が行い、電力系統技術分野の研究は明電舎が行いました。

本研究では、供給源(配電線の送出点)そのものが故障するという過酷な事故を想定し、配電系統の日本標準モデル(注3)において、120通りの需要パターンでシミュレーション実験を行いました。その結果、全ての需要パターンにおいて、同モデルにて公開されている一般的な配電経路と比べ、本研究では停電残量を同等または低減することに成功しました。特に、停電を完全復旧(すなわち停電残量をゼロ)にまで低減することに成功した事例もありました。このような高い事故耐性をもつ配電経路の算出は、配電損失を最適化することで得られています。なお、配電損失の最適化アルゴリズムも、東北大学と明電舎の産学共同研究に依って開発済みです。(特許登録済み)。

本研究の成果は、配電系統における高い事故耐性が、環境配慮とともに実現できることを示唆しています。脱炭素化社会の推進へ向け、今後、本研究成果の配電運用への活用が期待されます。

図1 本研究の概念図。

【詳細な説明】
研究の背景
一般に日本国内の配電系統は、故障が発生しても停電区間を極小化できるように、複数の経路から電力が供給できるよう形成されています。配電経路の選択肢は膨大な数となりますが、その中から各種評価指標を最適化する配電経路を、常時運用系統として選びたいという要望があります。特に、コスト軽減や省エネルギーの観点から、配電損失を最小化する配電経路を常時運用系統として選択することは、これまでも広く研究されてきました。
系統事故により停電が発生した際、故障箇所の復旧には時間を要するものの、故障が生じていない停電区間は、隣接する配電エリアの供給余力を融通することで、早期に停電復旧できることがあります。停電の早期復旧の可否は、常時運用系統に依存します。例えば、図2に示す配電系統は図1と同じものですが、図1とは異なる配電経路が常時運用系統として選択されています。図1の配電経路を常時運用系統としていれば、青い供給源(配電線の送出点)が故障しても、停電は完全に復旧できました。しかし、図2の配電経路を常時運用系統とした場合には、青い供給源の故障に対して、停電が残ってしまいます。なお、本研究では、停電の早期復旧を評価するため、遠方の配電エリアから電力を融通すること(多段融通)は考慮していません。
このことから、あらかじめ停電復旧がしやすいように常時運用系統を設定しておきたいという要望が生まれます。しかし、配電系統のいつどこで事故や故障が発生するかは予測できるものではありません。これまで、停電復旧の「しやすさ」を定量的に評価し、数理解析する方法は確立されていませんでした。したがって、配電損失を最適化した配電経路が、停電復旧しやすいかどうかも評価できていませんでした。

図2 常時運用系統の選択が停電の早期復旧に影響する例。

今回の取り組み
本研究では、配電経路の事故耐性を評価するために、停電復旧の「しやすさ」を表す指標を提唱しました。それは、供給源そのものが故障するという過酷な事故を想定し、その際に早期復旧できない停電残量を評価するものです。早期復旧の観点から、本研究では多段融通は考慮しません。また、配電系統には複数の供給源が含まれるため、それらが一つ一つ故障した場合を考え、最も停電残量が多いとき(最悪ケース)を評価します。このように過酷な事故における最悪ケースを考えることで、どこで発生するか予測できない停電の復旧しやすさを表しました。
本研究では、配電系統の日本標準モデルにおいて、120通りの需要パターンでシミュレーション実験を行いました。その結果、「配電損失量が小さい常時運用系統は、事故時の停電残量も小さい」という興味深い相関が得られました。その相関グラフは図1に示す通りで、相関係数は0.81以上でした。
標準モデルには、その配電系統に対する一般的な配電経路も共に公開されています。本研究では、それと配電損失を最適化した配電経路との比較も行いました。その結果、120通り全ての需要パターンにおいて、一般的な配電経路と比べ、停電残量を同等または低減することに成功しました。具体的には、120通り中23パターンで、停電残量を低減しています。特に、その内5パターンでは、一般的な配電経路では停電が残ったにも関わらず、最適な配電損失の配電経路では停電を完全復旧することに成功しています。

今後の展開
本研究によって、これまで広く研究されてきた最適な配電損失の配電経路が、停電復旧もしやすいことが示されました。これは、配電系統における高い事故耐性が、環境配慮とともに実現できることを示唆しています。脱炭素化社会の推進へ向け、今後、本研究成果の配電運用への活用が期待されます。

【用語説明】
注1. 配電損失量
電気は配電線を伝って需要家に届けられますが、配電線の電気抵抗によって(需要家に届くことなく)消費されてしまう電気の量です。配電損失量を少なくすることは省エネルギーに繋がるため、環境配慮の重要な要素です。

注2. 停電残量
隣接する配電エリアの供給余力のみでは、停電を完全復旧できないときがあり、その停電残量を評価しています。停電残量が小さいほど、停電復旧がしやすいことになります。なお本研究では、停電の早期復旧を評価するため、遠方の配電エリアから電力を融通すること(多段融通)は考慮していません。

注3. 配電系統の日本標準モデル
日本の実際の配電系統に基づいて設計された実用規模の配電系統データです。シミュレーション実験のベンチマークテスト用として公開されました。制御可能な開閉器数468、電力の供給源(配電線の送出点)数72、総需要量73-170MWh、線路容量300A、送り出し電圧6.6kV、電圧許容範囲6.3-6.9kVとなっています。

本件及び取材に関するお問い合わせ先

株式会社 明電舎  コーポレートコミュニケーション推進部 広報・IR課
電話 03-6420-8100