MEIDEN Engineer’s Note(明電 エンジニアズノート):No.7 EV駆動システム(モータ&インバータ) いちばん乗りは、明電舎。

いま新しい時代の乗り物として注目を集めるEV(電気自動車)。実は、世界に先駆け三菱自動車が量産した電気自動車i-MiEVに明電舎のシステムが使われています。そこには、30数年にわたる技術者たちの挑戦がありました。

いつ頃から、明電舎はEV駆動システムの開発を始めたの?

三菱自動車のi-MiEVのモータ(写真左)とインバータ(写真右)
板倉
明電舎は1980年代からすでにEV用のモータ&インバータの開発を始めていました。その頃は、まだ今のように携帯電話も普及していない時代です。自動車を充電して走らせるなんて、ほとんどの人が思ってもみなかった。当時のバッテリの性能を考えると、自動車会社でも本格的に取り組んでいるところはなかった。明電舎は、EV駆動システムの分野において、先駆者だったと言えます。
森川
当時は、車載に適応する.部品1つ集めるのにも苦労しました。EVに注目する部品メーカーすらほとんどない状況だったので、仕方ないですね。でも、どこの企業もやっていなかったからこそ、明電舎が挑戦する価値はあったと思います。

EV駆動システム開発を始めて、どうでしたか?

駆動システム開先プロジェクトについて語る板倉。
▲駆動システム開先プロジェクトについて語る板倉。
板倉
2005年には、ようやく三菱自動車から本格的にEV駆動システムの開発を依頼され、明電舎の中でも正式にEV駆動システムの開発がプロジェクト化されました。新しい事業として立ち上げていこうと。私も森川もそのプロジェクトのメンバーになったんです。製品としてだけでなく、品質に対する考え方やものづくりの姿勢においても、今までの明電舎のやり方に新しい刺激を与えてくれるプロジェクトになりましたね。
森川
大きなプラントや変電所を手掛ける明電舎は、受注生産が主でした。ひとつの製品を、お客さまの要望に沿って丁寧につくることが得意です。でもEVは、量産を前提にした製品です。一度生産に入ると、私たちの手を完全に離れてしまいます。そこは大きな違いでした。他にも企業という組織ではなく、EVに乗るお客様一人ひとりを意識すること。これも、BtoB企業の明電舎にはなかった視点です。相手が誰でも誠心誠意作ることに変わりはないんですけどね。EVは新しい事業としても、新しい明電舎のものづくりとしても、意味のある仕事だと思っています。

そのプロジェクトから生まれた、EV駆動システムについて教えてください。

EVの静寂性能について語る森川。
▲EVの静寂性能について語る森川。
森川
ガソリン車とEVの違いは、動力源がエンジンかモータかの違いです。前者は、ガソリンを爆発させ、エンジン内のピストンを動かして走ることで、振動や音が出ます。一方、EVは電気でモータを回して走行します。モータは高速運転時、1分間に10,000回近くも回転しているのに、エンジンに比べると振動や音が静かです。それでも、EVだから音は小さくて当たり前。そう思われている分、どんなに小さい音でも「音がするんだ」と感じられてしまうのが、EVの世界です。
板倉
モータの騒音を抑える機構は、色々なモータや発電機を扱ってきた明電舎にもありました。でも、それがそのままEVに適用できるわけではありません。車のサイズを考えると重いし、大きいし。そこで頭を切り替えて、振動を仰制する制御を行ったり、解析技術を用いてモータの形状を最適化したり、モータのフレームに強度を待たせて振動を少なくすることで、強いのに軽くて小さなモータを開発することができました。

EVって加速はどうなんですか?ガソリン車の方が良さそうだけど・・・

始動時の原動機の回転とトルクの関係
▲始動時の原動機の回転とトルクの関係
森川
EVはアクセルを踏むと、モータに電流が流れます。その電気の量を、インバータが制御しています。アクセルを踏みこむと、インバータはモータにその分多くの電気を流します。つまりガソリン車における変速ギアの役割を果たしているのです。EVは、電気ならではのレスポンスの良さと変速ギアが無いことによる継ぎ目の無い加速で、滑らかに走ることができます。
板倉
ガソリンエンジンの場合、ローギアから徐々に回転数を上げていかないと高いトルクが出ません。一方モータは、始動時の低回転域から最大のトルクが出せます。しかも、とてもスムーズです。ガソリン車に比べて加速がイマイチと思っている方もいるかもしれませんが、そんなことはないんですよ。モータの特性を生かした力強い加速も、EVの魅力のひとつです。

EVの燃費、つまり電費はどうなんですか?

森川
電費についても、色々な工夫をしています。まず駆動システム自体の小型軽量化ですね。最初に作ったモータ・インバータと比べたら、今ではこれが同じ駆動システムか、というくらい小さくなりました。あと、余分な電気をロスしない部品を使うことも重要です。電気を使うEVにとって、少しのロスも積み重なると大きなムダになるので。そしてインバータの制御技術を高めて、ムダな電気を流さないように工夫しています。
板倉
回生エネルギーも電費に一役買っていますね。モータは、発電機にもなるんです。アクセルを踏んで加速しているときは、電気が流れてモータとして駆動します。逆に下り坂などでアクセルを離して減速すると、タイヤの回転をうけて発電機としてバッテリに電気を貯めることができるんです。
減速時にはエネルギーを回生
▲減速時にはエネルギーを回生

これからEVはもっと普及していきますか?

EVの普及に関係のある明電舎のインフラ事業。
▲EVの普及に関係のある明電舎のインフラ事業。
森川
初めて自分たちが作った駆動システムをのせたEV試作車に乗った時の感動は、忘れられません。テストコースで運転したんですが、あれはすごかった。今まで味わったことのない加速でした。スピードは出ているのに、スーッと滑らかなんです。これを自分たちが作ったのかと思うと、興奮しましたね。世の中にはまだEVに乗ったことがない人が大勢います。みなさんにも早く乗ってもらいたいです。
板倉
大きなトレンドとしては、ハイブリッド車ですよね。でも給電設備などのインフラが整えば、EVはもっと普及すると思います。ぽくらはEV駆動システムの開発に携わっているけど、明電舎は、電気設備はもちろん、太陽光発電や風力発電、それにスマートグリッドなど、さまざまなインフラ事業に携わっています。EVは単なる移動手段としてだけでなく、エネルギー機器としての利用も考えられる。そんな広い意味で、これからもっとEVを普及させていきたいと思います。

最後に、今後のお二人の目標を教えてください。

「アイデアと品質のつまった製品を作っていきたい」
▲「アイデアと品質のつまった製品を作っていきたい」
森川
きっとこれからは、自動車会社さんも駆動システムを自社で開発するようになると思うんです。他の電機メーカーも追従する可能性がある。そこをEV駆動システムのパイオニアとして食い止めたいですね。いいものを作るねとか、やっぱ歴史が違うよね、と言われるような技術と品質のつまった製品を作っていきたいですね。
板倉
EV駆動システムの開発は、今までの明電舎とは異なるものづくりへの挑戦でした。それは、単に事業の幅を広げるということだけでなく、私たち一人ひとりの生活に直接つながっていく製品づくりという、新しいものづくりの思想を吸収する意味もあったと思うんです。その進化が、今の明電舎のものづくりに少なからず生かされています。私自身も、これまでの経験を生かして、EV駆動システムというカタチで、みんなが喜ぶものをお届けしたいと思います。

エンジニアズノート プロフィール 中部支社 営業第5部 営業課 板倉 秀樹(左) 好きなフルーツ:いちご EV事業開発部 EV開発課 森川 晃成(右) 好きなフルーツ:マスカット

[2012年6月22日]

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