MEIDEN Engineer’s Note(明電 エンジニアズノート):No.5 自動車試験システム すべてのクルマは明電舎を通る。

わたしたちの生活とは切っても切れない自動車。実は、明電舎とも切っても切れない関係。明電舎の手掛ける自動車試験システム。
普段は見られないその実力を、ぜひご覧ください。

明電舎と自動車?一体どんな関係があるんですか?

高畑 「国内のほとんどの自動車が、わたしたちのつくったシャシダイナモメータの上を通ります。」
▲高畑 「国内のほとんどの自動車が、わたしたちのつくったシャシダイナモメータの上を通ります。」
大槻
実は明電舎では、自動車の開発や審査に使う自動車試験システムを作っているんです。たとえば、完成車の試験に使うシャシダイナモメータシステムは、独立行政法人交通安全環境研究所自動車試験所(以下交通研)で使われています。ここでは、国の定める自動車型式指定制度に基づいて、新型車の安全・環境基準への適合性の審査を行っています。
高畑
交通研では、乗用車やトラックの審査が行われています。新型車が世の中に出るときには、必ずここで認証審査を受けるんです。つまり、国内のほとんどの自動車が、明電舎のつくったシャシダイナモメータの上を通っていくということになります。実は、自動車のカタログに載っている燃費や排出ガスの数値も、ここで認証された数値なんです。

シャシダイナモメータシステムってどんな装置ですか?

西原
シャシダイナモメータシステムは、ローラの上に自動車をのせてタイヤを駆動させ、それによって回転するローラの回転速度やトルクから性能を計測する装置です。交通研のような審査機関だけでなく、あらゆる自動車メーカーの新型車開発などに使われています。
大槻
ただローラを回して測っているわけではありません。実際に路上を走行するのと同じ状態を作り出して、試験をすることができるんです。たとえば、登り坂の走行を再現するときは、ローラに負荷をかけて回りにくくしたり、逆に下り坂の場合にはローラの負荷を軽くして回りやすくしたりします。車ごとに違う車体の重量に応じて負荷を変えたり、風などの空気抵抗、道の状況ごとに変わる走行抵抗を計算し、実際の路上での走行を再現します。
高畑
坂道や風以外の状況もシャシダイナモメータシステムは、現実世界と同じように再現することができます。たとえば、試験室に特別な冷熱装置を施し、真夏でも-40度の超低温空間を再現することが可能です。そのほか、騒音試験、耐久試験、動力性能試験も行えます。季節や天候にかかわらず、あらゆる環境条件の試験に対応できるので、新型車開発期間を飛躍的に短縮できるんです。
試験室で実際の走行状況をリアルに再現するシャシダイナモメータシステム
▲試験室で実際の走行状況をリアルに再現するシャシダイナモメータシステム

現実の世界を再現するってどういうことでしょう?

交通研のシャシダイナモメータシステムの様子
▲交通研のシャシダイナモメータシステム
高畑
自動車は常に一定のスピードでひたすら走り続けているわけではありません。加速したり、止まったり。走行中は、空気抵抗やタイヤの摩擦に加えて、慣性力が働きます。つまり、車体の重量によって止まりにくいとか、走り出しやすいとか、質量と加速度によって生じる負荷が変わってくるんです。
西原
例えば、シャシダイナモメータ上で、テストドライバーが自動車のアクセル開度を変えると、自動車の速度が変わり、計測・制御装置は車速によって変わるローラの加速度を検出し、その値と車体重量などから次にローラに与えるべき負荷を演算して、ローラの回りやすさを変化させます。これらの検出・演算から、何トンもの機械動作に至るまでの一連の動きを、0.1秒以下で行ない、試験中ずっと繰り返しているんです。この「高速制御応答技術」があってはじめて、実路走行を再現できるのです。

その他にも、何か明電舎独自の工夫はありますか?

高畑
シャシダイナモメータシステムは、自動車が出力する駆動力(トルク)を正確に計測しなくてはいけません。高精度なトルク計測を可能にしているのが、油圧浮揚式のダイナモメータです。明電舎は、1939年(昭和14年)に、すでにこの技術を確立していました。
大槻
シャシダイナモメータの構造は、大きく揺動子とペデスタルに分けられます(下図参照)。その間の厚さ0.2mm以下の油で、3t以上もある揺動子を宙に浮かせています。これが油圧浮揚です。この技術によって、高負荷・高精度のダイナモメータが実現します。また、油圧部分の形状、構成に独自のノウハウをもっていて、油量が少なく、コンパクトな設計で、限られたスペースでも効率的に設置できるようにしています。
油圧浮揚式シャシダイナモメータの構造。
▲油圧浮揚式シャシダイナモメータの構造。

シャシダイナモメータシステム以外にも、自動車試験システムってあるんですか?

西原
ダイナモメータをエンジンと直結して、エンジンの出力軸に負荷を与えることで、エンジンの回転とトルクを計測するエンジンベンチシステム。トランスミッションの評価用に使われるドライブトレインシステム。その他にも、ブレーキテストシステムなど、自動車の開発に欠かすことのできないさまざまな試験システムをつくっています。
ドライブトレインシステム
▲ドライブトレインシステム
エンジンベンチシステム
▲エンジンベンチシステム
大槻
国内のすべての自動車メーカーで当社のシステムが使われています。私たちも、群馬県太田市の工場内に研究開発棟を所有していて、メーカーとの共同開発や実験の請負など、開発から完成時の試験までトータルでサポートしています。

明電舎が自動車試験システムに取り組み始めたのは、いつ頃からですか?

西原「明電舎がクルマ社会の発展を支えてきたという自負もある。」
▲西原「明電舎がクルマ社会の発展を支えてきたという自負もある。」
高畑
1920年(大正9年)、日本で最初にダイナモメータをつくったのが、明電舎なんです。戦後は、自動車産業の発展とともに試験装置へのニーズも高まり、さまざまなダイナモメータシステムを開発してきました。いまでもこの分野では国内トップシェアを守り続けています。
西原
わたしたちも、その歴史を受け継いでいるというプライドがあります。これまで明電舎が、陰ながらわが国の自動車性能の向上、クルマ社会の発展を支えてきたという自負もあります。そしてこれからも、自動車試験システムが世の中に対して果たすべき責任は大きいと思っています。

最後に、この仕事にかける想いとは?

EVやHEV開発用の試験システム(EV REVO)も更に広めていきたい。
▲EVやHEV開発用の試験システム(EV REVO)も更に広めていきたい。
高畑
この仕事に携わっていて、一番うれしいのは新車発表のニュースですね。自動車試験システムを通じて、開発から自動車メーカーの方たちと一緒になって進めてきた新しいクルマが完成して、「これからみんなが乗るんだ」「どんな評判かな」と思うとドキドキして、この仕事をやっていて良かったと感じます。
大槻
自動車試験システムの精度を高め、極限までリアルを追求すること。僕らがその挑戦を続けることで、自動車開発のスピードを速めることができる。それが、EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド自動車)などの普及や低燃費化による環境貢献、ひいてはみなさんの走る歓びにつながるのだと確信しています。
西原
環境性能が求められるのは、これから大きな市場となる海外でも同じです。明電舎の自動車試験システムが世界でもナンバーワンになって、世界中のクルマの環境性能を、もっと向上していきたいと思います。

エンジニアズノート プロフィール 動力計測システム工場 技術部 大槻 和久(左) 好きなフルーツ:ぶどう 動力計測システム工場 技術部 西原 正己(中央) 好きなフルーツ:柿 動力計測システム営業部 技術課 高畑 洋(右) 好きなフルーツ:オレンジ

[2011年11月25日]

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